新美南吉記念館は、童話「ごんぎつね」の作者である新美南吉(にいみなんきち)を顕彰した建物です。
幾重にも工夫が凝らされた展示も素晴らしいのですが、それ以上に建物が興味深い。
多くの建物を見てきた一級建築士である私から見ても、一押しの名建築です。
その見所について、ご紹介します。
新美南吉記念館の見所5つ
見所1. 地中に埋められた景観建築
豊かな田園風景を損なわないように、建物のほとんどが地中に埋められています。
はじめて来た人は、そこに記念館があることに気付かないぐらい。
屋根はゆるい波型で芝生に覆われているため、公園のようにも見えるからです。
敷地内にあるステージや屋外休憩所では、いろいろな地域の催しがおこなわれます。
矢勝川堤の彼岸花が咲く9月末~10月に開催されるごんの秋まつりもその一つです。
また、記念館の横には、「ごん狐」の舞台となった中山をイメージした「童話の森」があり、森の中には遊歩道やせせらぎが整備されています。
見所2. 平らな床がない、傾斜のある展示空間
この建物の展示空間の床が、なんとも奇妙で、
ゆるやかなスロープになっています。
床が平らでないことは大変珍しく、ニューヨークのグッゲンハイム美術館ぐらいではないでしょうか?
なぜ、床を平らにしなかったのか?
思いつく理由としては、、、
- 「ごん狐」が住んでいる自然の山谷を表現したかったから
- うねる天井に合わせて、天井の高さを一定にしたかったから
でしょうか。
しかし、車椅子の利用者もいますので、正しい選択だったとは言い難いように思います。
見所3. 自然光の取り込み
建物のほとんどが地中にもかかわらず、館内に居ても地下を感じません。
ドライエリアや中庭が巧みに配置されており、随所に自然光が差し込むスペースがあるからです。
見所4. コンクリートの天井と空調や照明の工夫
天井を見上げると、屋根の波型コンクリートがそのまま天井になっていることがわかります。
そのため、通常は天井面に取り付く空調機器や照明器具は、白いダクトを天井に沿わることで設けられています。
見所5. 展示の工夫
展示がわかりやすいことも特徴の1つです。
- 童話を再現したジオラマ
- 映写室
- デジタル閲覧コーナー
- 原寸大で造られた、南吉の書斎
- 童話の1シーンの展示
- 南吉全集や絵本、研究所のある図書館
など。
ともすると、活字だらけになりやすい文学の記念館を子供も楽しめるような工夫が数多く見られます。
新美南吉記念館の概要
建物名称 | 新美南吉記念館 |
住所 | 愛知県半田市岩滑西町1‐10‐1 |
電話 | 0569-26-4888 |
開館時間 | 9時30分~17時30分 |
休館日 | 月曜日、第2火曜日、年末年始(月曜日、第2火曜日が祝日または振替休日のときは開館し、その翌日が休館) |
観覧料 | 220円(20名以上の団体は各170円) ※中学生以下、障がい者手帳は無料 |
駐車場 | 57台(無料) |
アクセス | 電車:名鉄河和線「半田口駅」から徒歩20分 車:知多半島道路「半田中央IC」から5分 |
新美南吉とは?
1913年7月30日、愛知県半田市岩滑(やなべ)で生まれます。
4歳の時に母を亡くし、6歳で継母を迎え、8歳で養子に出されました。
幼少期の寂しく孤独な生い立ちが、童話の創作にも影響しているような気がします。
18歳の頃、半田第二尋常小学校の代用教員をしながら、自分で作った童話を子供たちに話し聞かせていました。
そして、1932年、「赤い鳥」1月号に「ごん狐」が掲載されます。
その後、東京外国語学校へ進学しますが、21歳で気管支や肺から喀血し、故郷の半田市岩滑へ戻ります。
1943年3月22日、29歳8か月の若さで死去。
死因は結核でした。
同じ童話作家、教員経験、若くして結核で死去という共通点から、「北の宮沢賢治、南の新美南吉」とも呼ばれています。
代表作に、「おぢいさんのランプ」「手袋を買いに」「牛をつないだ椿の木」「ごん狐」「花のき村と盗人たち」「成坊とトラ」などがあります。
公開設計競技で選ばれた、新美南吉記念館(案)
1994年、新美南吉の生誕80周年・没後50周年を記念して「ごんぎつねのふる里 新美南吉記念館 公開設計競技」が開催され、421点の応募の中から新家吉宏、岡村雅弘、石田純治の3人による共同案が最優秀賞に選ばれました。
審査員長は愛知県出身の建築家 宮脇檀をはじめとして、宮本忠良、長谷川逸子、竹山聖、半田市出身の著名写真家 村井修、新美南吉の研究者で児童文学者 鳥越信と、審査員は多彩な顔ぶれでした。
最優秀案について、愛知県建築士会長、藤川壽男は次のように評しています。
最優秀案に選ばれた新家、岡村、石田共同案はコンペの主旨、テーマの主旨を充分理解されユニークな構想を提案されました。
屋根によって波打つ地形を造形され、システマティックな知的な構成でありながら風景に溶けこむ、やさしい詩情を漂わせています。
美しい街並みの残る半田市に、この新しい美しさが波打ち、今後も地元の熱意によって美しさが、さらに増幅することを期待します。
出典:新美南吉記念館コンペ (社)愛知建築士会会長 藤川 壽男
新美南吉記念館|「ごんぎつね」の作者・新美南吉を顕彰した名建築のまとめ
以上、新美南吉記念館、「ごんぎつね」の作者・新美南吉を顕彰した名建築の見所を紹介しました。
一番の見所は、地面に埋めたり、緩やかな波型の屋根を芝生で覆ったり、「童話の森」が隣接したりすることで、半田市岩滑の豊かな田園風景に溶け込もうとした工夫です。
竣工後30年が過ぎても古さを感じさせない、とても斬新な建物でした。
最後まで、読んでいただきありがとうございました。
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